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リクエストのラストワルツ
第1章 意外な出会い

 次の週の金曜日、同じ時間帯に先に冴子を見つけた慎也が今度は落ち着いて声をかけることができた。

「こんばんは」
「あら、こんばんは」

 冴子は平静を装って笑顔を返したが、内心では(やったぁ!)と声を上げていた。

「今夜は何作るの?」

 冴子が訊ねる。

「まだ、これから考えながら買うんです」

 その日の買い得品などを見ながら決める習慣だったので、事実まだ慎也のかごには何も入っていなかったが、先に来ていたと見えて冴子のかごにはいくつかの食材が見えた。

「そうなの? よかったらうちに来ない?」

 自分でも予想すらしていなかったことばが冴子の口から飛び出したことに彼女自身が驚いていた。

「えっ?」

もっと驚いたのは慎也である。

「ひとりで寮で食べるんでしょ? わたしもひとりだから、よかったら…」
「はい… でも…」
「大丈夫よ、わたしも明日は遅いから」

 うろたえる慎也に冴子は構わず、
「わたしもひとりじゃつまらないし… 明日はお休みなんでしょ?」
 たたみかける。
 
「はい、でもほんとにいいんですか?」
「大丈夫よ、誰も来ないから」
「ありがとうございます。 じゃあお邪魔します」

 慎也の心臓は発作を起こしそうだったが、冴子もあのときよくあんなことが言えたものだとあとになってから思った。
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