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リクエストのラストワルツ
第1章 意外な出会い

 そんなことがあってから冴子が、そのモールへ行くたびにまた彼に会えるのではないかと周囲を注意深く見まわすようになっていたある金曜日のことだった。
 
 その日は、受付シフトの7時上がりだったので、モールにあるいつものスーパーへ行ったのは7時半を過ぎる頃だった。

(いた!)

 買い物かごを手にしたスーツ姿の彼を見つけて、冴子の胸が騒いだ。

(今度は声をかけよう…)

 冴子は、鮮魚コーナーの平台売場にいた彼に近づくと、今度は迷うことなく正面から声をかけた。

「こんばんは、久松さん」

 いきなり声をかけられた彼が、全身で驚くのが冴子にはわかった。
 彼は、冴子のマスクの顔しか知らないのである。
 それに気づいて、すぐに冴子は微笑みながら名乗った。

「藤川クリニックの衛生士です。三上といいます」

「あ! ああ… こ、こんばんは」

 初めてそこで理解して、想像していた以上の魅力的な笑顔に返事を返した慎也の声は、いくらか震えていた。
 まさか、こんなところで彼女に出会うなど思ってもいなかったので、ほかに何も返すことばの用意はなかった。

ただ、かごの中に2つだけ、値下げ品が入っているのが少しだけ恥ずかしかった。
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