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第1章 意外な出会い

　
　冴子には、隠れた恋人がいた。
　少なくとも半年前までは…。
　
　相手は冴子が３年前に入会した社交ダンス教室の担当教師で、半年ほど経った頃たまたま町で出会ったのをきっかけに秘密の交際が始まったのだったが、１０歳上の彼には家庭があった。
　
　専門学校を卒業して１２年、歯科衛生士としてキャリアを積んできた冴子には結婚願望というものがなかったが、ときどきそばにいてくれる男は欲しかったというのは事実であり、その意味で彼は都合のいい男だったかもしれなかった。
　しかし、２年近く密かな関係が続いていたある日、彼は冴子の元を離れていったのである。

　郷里の広島でダンス教室を開業するためというのがその理由だったが、それがほんとうかどうかまで彼女は確かめることはしなかった。

　美しいと言われる部類に入る冴子だったが異性との接点が少なかった彼女にとって、専門学校の時に初めて知った男から数えて３人目の彼との春の別れだった。