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リクエストのラストワルツ
第5章 台風の夜
 ふたりが初めて会話を交わしてから3度目の土曜日は朝から台風の前ぶれの小雨もようだった。

 午前中にレッスンへ行き、駅近くのマックにいた慎也に冴子からのLINEが届いた。

>>仕事終わりました
  今どこにいるの?
>駅前のマックにいます
>>どのくらいで出られる?
>もう食べたからすぐに大丈夫です
>>10分後にお店の前で待ってて
>はい

(そうだ、冴子さんはお昼まだのはずだ)

 慎也はひとりでランチをしたことを後悔していた。


「お昼済ませたんでしょ?」
「ごめんなさい、夕方かと思ってたので」
「ううん、大丈夫よ」

 慎也を助手席に乗せた冴子は、お昼を買いに行くからと言っていつものモールの駐車場に車を停めた。

「一緒に行く?」
「すみません、誰かに見つかると面倒だから、本屋にいます」
「わかったわ、成人コーナーね?」
 
 笑いながらからかわれた慎也が「ちがいますよ!」と真顔で抗議したので、冴子は余計におかしくて、そんな彼が可愛いとまた思ったのだった。

 LINE電話をくれてから不織布のエコバッグを提げた冴子が小走りで戻ってくると、
「お天気悪いからこのままうちに帰っていい?」と言って車を発進させた。
 窓の水滴がふたりを外界から遮断しているようで、慎也はなんとなくそれが嬉しかった。
 
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