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リクエストのラストワルツ
第5章 台風の夜

「どうやって行こうかしら…」
「冴子さんの車で?」
「高速あまり慣れてないからどうしようかな…」

 ふたりの住むニュータウンからだと高速の館山道を使って3時間ほどの距離である。

「ぼくが運転してもいいけど、電車かバスでもいいかも…」
「そうね… 考えておいてくれる?」
「はい、任せておいてください」

 慎也は旅行の移動計画を立てるのは好きだったので、また楽しみが一つ増えたと喜んだ。

 

 冴子の手料理が並ぶ食卓にはそれまでと違う小さな変化があった。
 今日のために冴子が用意してくれたワイングラスと箸やフォークなどのウェアがお揃いで並んでいたのである。
 その小さな食卓に並んで座り、大皿から取り分けてくれる冴子を見ていると、慎也は子供のころにいとこと遊んでいたようすをふと思い出して、おとなのおままごとのようだと思うのだった。

 夕方からのゆったりした食事が終わるころ、雨脚がいくらか強くなった。

「まさかとは思うけど、停電になったりする前にお風呂しておかない?」

 冴子は一度だけ、その前の大雨の時に停電を経験したことがあった。
 短い時間ではあったが、ひとりの夜の停電は驚いたし怖かったのである。

「ぼくが先ですか?」
「そうよ、わたし時間かかるもの…」

 食器洗いをすると言った慎也を遮って片付けを始めた冴子に促されるようにして、
慎也は脱衣所へ立ったが、シャワーで体を洗いながら、これから過ごす夜のことを考え始めると押し寄せてくる昂りを抑えるのに苦労する彼だった。
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