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リクエストのラストワルツ
第5章 台風の夜

「早いわね、じゃあわたし行ってくる」
バスルームから戻った慎也にテレビのリモコンを渡すと入れ替わりに冴子が脱衣所に消えた。
ちょうど始まった夜のニュースが今夜の台風のことを伝えている。
(夜中に来ちゃうんだ…)
スマホを手にした彼は同じことを伝えるニュース画面を素通りすると、さっき決まった舘山のホテルのHPを開いてルートを調べ始めた。
(特急なくなっちゃったんだ…)
内房線の特急が廃止されたのを知って、今度はバスを探し始める。
東京駅から海ほたるを通るルートと千葉駅からの高速バスを見つけると予約の仕方を調べ始めた。
(どれがいいかな… やっぱり車のほうがいいか…)
優柔不断ないつもの性格であれこれ迷っているうちに、洗面所から聞こえるドライヤーの音が消え、ピンクのロングTシャツ姿で戻ってきた冴子が、ベッドを背にしてもたれていた慎也の横に並んで腰を下ろして膝を抱えながら声をかけた。

