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リクエストのラストワルツ
第1章 意外な出会い

 クリニックを出て、住まいの会社の寮に戻った慎也は読みかけの文庫本を手にすると備え付けのベッドに仰向けで横になった。
 寮とはいっても、会社が若手単身社員向けに1棟借りしている1LDKの民間アパートである。

 前年の秋に都心から私鉄で30分ほど離れたニュータウンへ本社を移転させた会社は、通勤が不便になった社員向けに社宅や寮を用意して対応を図り、慎也もその恩恵にあずかって入居できていたが、会社までは徒歩15分くらいの距離であり、暮らすには充分に快適な空間であった。 

 食事の提供はないので、独身者の中には費用補助を受けて外食する者も多かったが、慎也は慣れていたし、スーパーでの買い物が好きだったので苦のない自炊生活である。

 週末の休日の午後に歯科検診を受けたので、そのあとはどこへも出かける予定はなく、いつものスーパーで夕飯のメニューを考えるだけだった。

(きれいな人だな…)

3回目の検診から帰ってから、改めて慎也は思い返していた。

 一人っ子で育ち、男子クラスの高校、そして理系に進学した大学はコロナ禍のためにリモート授業が大半だったうえ、そもそも控えめな性格もあって、女性にはあまり縁がなかった彼には、間近に親しげな口調で接してくれる姉のような衛生士が新鮮で心惹かれるのだった。
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