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リクエストのラストワルツ
第6章 海を見ながら

 チェックインを済ませ、3階の部屋まで案内してくれたボーイが去るとふたりはゆっくりと抱き合ってキスを交わし、コンパクトな部屋の大きなダブルベッドの横を抜けて明るい光が差し込む掃き出しのピクチャーウィンドウを開けた。
 閉じ込められていた空気と入れ替わるようにさわやかな秋の空気がふたりを包んだ。

「すごい、きれい!」

 灯台で言ったのと同じ感嘆の声を冴子があげる。

 高台にある広いバルコニーからは全面に真っ青な空と海が広がっていた。
 そして足元には、ふたりで並んで浸かることのできる寝湯の表面が風に吹かれながら小さな波で揺れていた。

 一緒に来る相手が変わったことに冴子は不思議な感覚を抱きながらもわだかまりを感じることはなくその絶景に眼を奪われていたが、さすがにその思いまで慎也が読み取れるはずはなかった。

「ここでコーヒー飲みましょうか?」
「そうね、素敵すぎるわ」

 お湯を沸かしたケトルを手にして戻ってきた慎也は、浅い小さなプールのような露天風呂の横にしつらえられたテーブルに置くと、パックのドリップコーヒーとカップを運んできた冴子と向かい合わせの椅子に腰かけた。

「美味しいわ」
「こんなところで飲むからでしょ?」

 どこにでもあるコーヒーだったが、その香りと味は格別に思えた。
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