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リクエストのラストワルツ
第1章 意外な出会い

冴子の勤める藤川クリニックの診療時間の終わりはサラリーマンの退勤後の来院を考えて午後7時までである。
彼女は、もう一人の歯科衛生士と交代で受付と衛生士のシフト勤務をしていて、衛生士を務める日は午後5時で上がることができるので、そのあとの買い物などの時間に余裕ができるのが嬉しかった。
5時上がりとなったある土曜日、冴子はいつも寄るショッピングモールの2階にある書店で、時々買うクッキングブックを探していた時だった。
(あれは、彼じゃない?)
久松慎也の姿を見つけたのである。
(そうか、今日は休みなんだ… 住んでるのも近くなのね…)
どうしようか迷いながら声をかけようとして、冴子は思いとどまった。
彼がいたのは、売り場の隅に設けられた成人向けの月刊コミックが並んでいる場所だったのである。
近寄ったことのないコーナーに透明なシートで覆われて並んでいるコミックをしばらく眺めていた彼が、やがてあきらめたようにその場を離れて書店から去るのを、冴子は少し離れたところから見送った。
(彼も若い男の子だし… 声かけられたら恥ずかしいよね、きっと…)
レジを済ませるとエスカレータへ急いで追いかけてみたが、その姿はもう見当たらなかった。

