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リクエストのラストワルツ
第7章 リクエストのラストワルツ

仕事始めの月曜日、慎也の身にも思いもよらない事件が起きた。
「え? 3月にですか?」
夕方になってから上司に呼ばれた彼は、3月に台北への異動を命じられたのである。
単身で、家庭事情に問題もない彼に断ることができる理由は何もなかった。
とっさに頭をよぎったのは冴子のことだけであった。
(どうすればいいんだ…)
深い付き合いになってまだ数か月である。
まさにこれから最も燃え上がろうとしている矢先に冷水を頭から浴びさせられたような気持ちに陥った彼は、退勤までの時間、何も手につかなかった。
2日間をどうしようもない気持ちのうわの空でやり過ごした慎也は、水曜日の夜になって冴子のマンションを訪ねた。
「何かあったの?」
玄関を入るなり異様に落ち込んでいる彼を見て問うた冴子に、慎也は月曜日に受けた異動内示のことを伝えたが、冷静に聞いていた冴子の頭の中は、数日前の混乱に拍車がかかった。
「どのくらい行ってるの?」
「一応3年って言われてます」
「時々帰って来れるの?」
「半年に1度と、あとは日本出張があれば…」
成田から台北は4時間ほどだが、さすがに国内旅行のようなわけにはいかないし、今の
ように簡単に逢うことはできない。

