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恋かるた
第5章 思いたえなむ -睦月-

 沢田の振る舞いはどこまでも穏やかで優しかった。

 肩に回された手に誘われるようにして沢田に身体をあずけた志織の髪がその手で綿を包むようにそっと撫でられる。

 反対側の手で顎が軽く持ち上げられると、コーヒーと煙草の香りが唇に重なった。

うっすらと開いた唇が沢田の舌先でついばまれているうちに、下唇を甘噛みされて志織は鳥肌が立つような気がした。

 少しずつ差し込まれる彼の舌を志織も甘噛みして応える頃には声にならない喉の奥が震えた。

 志織の抵抗感がなくなったことを確かめ終わったような唇への愛撫を続けながら、沢田の手はモヘアニットのセーターの上から志織の胸へ伸び、掌でやわらかくくるまれた。

 一瞬だけ志織の背が小さく反る。

 掌にすっぽり収まる小さな胸がいたわるように愛撫され、セーターとブラジャーを越してその優しい快感に襲われた志織は思わず口が開いて唇を離した。

「ああぁ…」

 切ない声があふれ、顎が上がる。

「しおり…ちゃん…」

「もう〝ちゃん〟じゃないです…」

「しおり…」

「はい…」

「かわいい…」

「もう… おばさんですから…」

「ぼくには、ずっとしおりちゃんだ…」

「あああ…」

 耳元で囁かれる沢田の声に志織は震えた。


(もっと愛されたい…)

 瑞穂を産んでからは夜の営みもほとんど途絶え、離婚してからの5年を含めるともう10年以上男に胸を触られることなどなかった志織の躰を、忘れていた快感が何度も電気のように走る。

(こんなに感じるなんて…)

 しかし、肩を抱かれていた手が胸に移り、胸にあった沢田の手がスカートへ伸びて裾をたくしあげようとしたとき、志織の手が反射的に彼の手を強く押しとどめた。

「だめ…」

「しおり…」

「ごめんなさい… 娘が…」

 〝娘〟という言葉を聞いた瞬間、沢田の手が止まった。


「すみません… 試験が終わるまで…」

「そうだったね… ごめんね」

 押し寄せてくる快感に飲み込まれそうになっていた志織の欲望は理性でかろうじて抑えられたが、沢田はあくまでも紳士だった。
 性急に先を急ぐことなく、それ以上志織を困惑させることはなかった。
 
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