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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第4章 密やかな溢れ
部屋はいつもと同じはずなのに、とても静まり返っていた。

ポケットからスマートフォンを出すだけの動作の衣擦れの音ですら、裕樹にはよく聞こえる。

葵は裕樹と視線を合わせようとせず、唇が少しだけ動いていた。

裕樹の前にゆっくりとスマホを渡そうと、腕を前に出していく。

一度躊躇うかのように間が生まれ、握られたスマホは裕樹の首元に差し出される。

葵はなにか言葉を口にしようとするが、言葉にはならない。

スマホを持つ手が僅かに揺れていて、視線の合わない葵に裕樹も何も言おうとせず、それを受け取る。

スマホが指から離れ、葵は肩の荷が降りたかのように顔を上げる。

突然の事に何も考えずにスマートフォンを受け取った裕樹の指が画面に触れると、ココの壁紙と時刻が表示されていた。

同じ機種のスマートフォンを持っている裕樹は、右下をタップするとカメラが起動することを知っている。

そんな事が頭に過った刹那──

足元にパサっと葵のニットベストが落ちた。

葵と視線が交差した時、スマートフォンを渡された理由を理解した裕樹は目を見開いた。

カメラのアイコンをタップし、レンズを向けてフレームに葵の姿を収める。

葵はそれを静止する事はなく、カメラから視線を外し、シャツの第二ボタンに手をかける。

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