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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第5章 滲む境界
「すごく見たい…です。」

それは自身の内を完全に見透かされていて、完敗だと言っているようだった。

裕樹のその言葉に葵は言葉を返さず、ただ横目で見つめてくる。

そのまま2人の視線だけの時間が続いて、葵がゆっくりと体を左側にずらした。

ちょうど1人分が横になれるスペースができていて、それは裕樹を迎え入れるための儀式のようなものにさえ感じられた。

言葉を発していない葵が「おいで」と無言で招いているようなその所作に、心臓を掴まれているかのような緊張感が走り、裕樹の理性の輪郭は、墨が水に溶けるように、静かに滲んでいった。

裕樹は息を殺しながらベッドの端に腰掛ける。

掛け布団の隙間に手を差し入れて、葵の世界に侵入するかのように、ゆっくりと体を滑り込ませていく。

指先や体に先ほどまで葵がそこに寝ていた体温の余熱が伝わり、僅かにシャンプーの香りが漂う。

かつてないほどの至近距離に、鼓動が早くなるのを感じる。

葵と視線が重なって、お互い恥ずかしさを感じていた。

裕樹は頭の高さを下げれば、葵の胸が顔の前に来るということに気付き、体が触れないようにゆっくりと頭の位置を下げる。
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