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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第8章 可惜夜に焦がれ墜つ【破】
裕樹の鼓動は荒く脈打ち、胸を突き破りそうなほど、高鳴っていた。

ゆっくりと大きな膨らみから背中をなぞるように少しずつ手をホックへと移動させていく。

緊張がピークに達し、震えを抑えながら指先に力を入れてホックを外そうとするが、なかなか外れない。

(引っかかっている金具を外すだけじゃないのか……4つもあるなんて知らないぞ……)

苦戦しているのを感じ取ったのか、葵が肩越しにこちらを振り返った。

先ほどの否定も肯定もしない目とは違い、緊張感が少し薄れたような眼差しで、葵は口を開く。

「緊張しすぎじゃない?手が震えてるよ。」

「しょうがないじゃん!ホック外すの初めてなんだからさ…。」

裕樹のその一言に、葵の口角は少し上がった。

「言わなくてもバレバレだよ。」

興奮のあまり、余裕のなさを葵は全て見透かしているようだった。

「……伝わってくるよ。触れてる時の裕樹くんの気持ちが、真剣で。」

葵のその言葉に裕樹は返す答えがなく、ただ目を瞬いた。

言葉を発せようとしても、それは言葉にならずに唇が動くだけだった。

"いつも見てるだけだけど、触りたいとか思わないの?"

保健室での葵の言葉が裕樹の頭の中でこだまする。

理性を失うことを前もって伝えていたはずなのに、明確な拒絶をしない葵に、恐怖にも似た疑問が湧いた。



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