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いまやめないで このままでいて
第2章  第2話  わたしをひとりにさせないで、ひとりでさせないで

 それから数日が経った週末の土曜日、美咲が帰宅して間もなくインターホンのチャイムが鳴った。

 宅配便かと思って、“何も頼んだはずはないけど…”と考えながら、モニターを見ると、そこには両手を前に揃えて立つ、自分より少し年上に見える若い男がいた。

「隣に越してきた若松と申します。ご挨拶に伺いました」

 単身赴任で入居したのだと、その彼は好感の持てる笑顔を見せて言った。

 今どきにしては珍しく、新しい隣人が引っ越しのあいさつに来てくれたのである。

 丁寧に包まれた挨拶タオルを受け取って開きながら、きちんとした人で良かった、と美咲は思いつつ、自分の帰宅を待たれていたのかとも思うと一抹の不安のようなものも僅かに感じるのであった。

 挨拶を受け終わってから通勤着のスカートを下ろしてハンガーに吊るし終えると、冷蔵庫の水をひと口飲んでから洗面所へ向かい、ブラウスと下着を入れてから洗濯機を回してシャワーを浴びる。

 帰宅後のいつもの動作である。

 シャワーの前で良かったわ、と思った。

 ゆっくりとシャワーを浴び終えて軽く髪の水気を落とすと、巻きつけたバスタオルの端を胸の前で挟んだままベッドの横に座って下着の入った抽斗を開ける。

 普段使いの下着の奥に、文哉からもらった可愛らしいショーツが何枚かきれいにたたんでしまってあるのが目に入り、また悲しさと切なさがこみあげてきた。

 一番奥にあるフリルがついたシースルーに近いレースショーツは恥ずかしくてまだ一度も着けたことがなかった。

 いつか大切な日に、と思いながらその機会がなくなってしまっていた。

(もう処分しよう…)

 なんとなく正座したまま、手前の1枚を取ると彼女は静かに抽斗を閉めた。

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