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いまやめないで このままでいて
第4章  第4話  夜汽車に揺られて濡れて

 列車が三ノ宮を出るのは深夜の0時を過ぎる。

 右利きの人にしては珍しく右手にはめた時計を見て、「そろそろ行こうか」と純一が言ったのはまだ22時を過ぎたばかりだった。

 ハーバーランドの賑わいからは少しだけ離れているホテルの前には静かな公園が広がっていて、人の数もまばらだった。

「ずっと逢いたかった」

「わたしも… ずっと逢いたかった」

 街灯のあかりから少し離れたベンチに腰を下ろし、その日初めてふたりはしっかりと抱き合って、唇を求め合った。

 そばを別のカップルが通り過ぎるのを気にも留めることはなかった。



 純一には見慣れた三ノ宮駅のホームからの景色だったが、灯の消えたビル群の間からわずかに夜の海らしきものが見える風景と、これから過ごす数時間への期待とで、亜矢の胸の中はいろんな思いが交錯していた。

 やがて、終電を待つ通勤客らの中をクリーム色とコーラルレッドのカラーに包まれた列車が定刻どおりに静かに滑り込んでくる。

 亜矢は純一の顔を見ることができずにいた。

 奇跡的に取れたと純一に教わった2階の個室A寝台は亜矢が想像していたよりもずっと素敵で、コンパクトなホテルの一室を思わせるような空間だった。

 すぐに車掌が検札に来てアメニティバッグを置いていく。

 サイドデスクに中身を広げた彼女は、彼と一緒の部屋でないことに少しがっかりしたが、あとで彼の部屋に行けばいいのだと思いなおした。

 ひと息いれてから専用のシャワールームへと向かう。
 
 直前におそらく彼が使ったことが濡れたままの床の様子でわかると、わけもなく微笑みがこぼれた。

 6分に制限された時間いっぱいを使って念入りに身体をきれいにした亜矢が乾かしきれない髪をタオルで巻いてシャワールームを出ると、目の前のデッキに純一が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

「ぼくの部屋に来る?」
 
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