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いまやめないで このままでいて
第5章  第5話  過ぎた日の思い出を彼にあずけて

『都合により当分の間お休みさせていただきます』

 3週間ほど経って、早めの帰宅時に『花かすみ』を再び訪れた坂田は、閉じられたままのシャッターに貼られた小さな紙を見て驚いた。

(定休日じゃなかったんだ…)

 店に近づいた時、ウィンドウから漏れる灯りが見えないことに気づいた彼は定休日だったかとがっかりしながら通り過ぎかけて、その貼り紙を見つけたのだ。

 水替えを毎夜している部屋のヒペリカムはまだ枯れるには至っていなかったが、カスミソウはドライフラワーのようになりかけていたので替えようと思って訪れた彼は、何があったのだろうと気になりながら、彼女に会えなくなったことに胸が騒いだ。

 店の奥の住居らしい窓にも人の気配がなく、小さな芝生の庭に置かれたガーデンファニチャーが物悲しげに眼に映る。

 閉店とは書かれていなかったが、当分の間という言葉が気にかかった。

 花を買ったときに思い出した子犬連れのつば広の黒い帽子の彼女の姿が、ふとしたはずみで頭に現れるこの数週間の彼だった。

(なんでこんなに気になるんだろう…)

 車もほとんど通らない住宅地の道には、騒がしく響くアブラゼミに混じって、日暮れになるとヒグラシの声も聞こえる。

 しばらく貼り紙の文字を見つめていた彼は、やがて自分に苦笑いしながら日中の余熱が残る往来の途絶えた家路を辿った。



 出勤の朝、彼女の散歩姿を探しながら、毎週のように店の様子を確かめに行っていた坂田が、開いている店に気づいたのはもう9月が終わろうとしていた頃だった。

 ほとんど諦めながらも、単なる習慣のようになってしまっていた週末土曜日の夕方遅くのことだった。

(開いてる!)

 思わず彼は声が出た。

 以前は店の前に工夫を凝らしてレイアウトされていた季節の鉢植えなどが出てはいなかったが、確かに店は開いていた。

 躊躇いながらうかがうようにして、坂田は開放されている入口を入った。


「いらっしゃいませ」

 小さな店の片隅のカット台の横から彼女が顔を上げて彼に落ち着いた声をかけた。

(あの人だ)

 坂田はうれしさを押し殺して、小さく会釈を返した。

 3か月ぶりに見たその人が、一瞬懐かしそうな表情を見せたように思えたのは彼の思い過ごしではなかった。

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