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いまやめないで このままでいて
第8章  第8話  知らなかったこの震える悦びを

「宇田川さんはクレマチスが好きなんですか?」

 打刻をして通用口から出ようとした彼女は、ちょうどそこにいた店長の栗原と退勤のあいさつを交わしたあとに、そう声をかけられて心臓が止まるかと思った。

「あ… いえ… あ、はい…」

 支離滅裂な返事しか彼女はできなかった。

「駐車場まで一緒に行きましょうか」

「は、はい」

 副店長と交代で早上がりの日だった栗原にそう言われて、従業員駐車場までのわずかだったが、奈津子は断る術を持ち合わせていなかった。

「すみません、呼び止めて」

 栗原は明るい声で奈津子に言ったが、彼女は何も返事ができなかった。

「この間の休みの日にぼく、宇田川さんを帝国ホテルで見かけたような気がして…」

「…」

「間違ってたらすみません。
 クレマチスさんに今夜メールするので、良かったら見て下さい。
 怖がらないでください。」

「すみません…」

「ぼくこそ、すみませんでした
 お疲れさまでした。」

 ほんの2分くらいの時間が、奈津子には何時間にも感じられたが、栗原は普段と変わらない明るい笑顔で自分の車へと向かって行った。



(やっぱり、あれは店長だったんだ…)

 頭から離れない数日前のことに奈津子は不安で胸がいっぱいだったが、店で顔を合わせても今までと何も変わらない、特にパート社員に対して穏やかな栗原が不思議だったから、もしかするとよく似ていただけなのかもしれないと思っていたのだ。

(どうせ今日は誰もいないし…)

 いつもと同じで夫の帰りは遅いし、高校生のひとり息子は部活の合宿で帰ってこない。

 栗原のことばで買い物に行く気持ちも失くした奈津子は、喉を通らないひとりだけの夕食をあり合わせのもので済ませると、恐る恐る震える手でスマホのメールを開いた。

 夜と言っていた栗原からのメールが受信箱の一番上に届いていた。

 そのメールの件名にはこれまでと違って、『栗原よりクレマチスさんへ』とあった。

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