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いまやめないで このままでいて
第8章  第8話  知らなかったこの震える悦びを

「もう、お会いできなくなるんですか?」

「少しして落ち着いたら会いに来ます。 LINEもあるし」

 チェーンストアの正社員の人事異動は早い。

 今の店で2年の店長を過ごした栗原は、隣県にオープンする新店の店長に抜擢されて1か月後には異動してしまうことが数日前、従業員にも知られてしまったのである。

 栗原の異動を同僚から教えられた奈津子はその夜彼に訊ねたが、正式に発表があるまでは言えなかったのだと言われたのだ。



 深々としたラブシートのソファでゆっくりとコーヒーを飲み終えると、ごく自然に栗原の腕が奈津子の肩を抱いた。

 それを待っていたかのようにして奈津子は彼に躰をあずける。

 栗原の手が伸びて壊れものを扱うように彼女のあごが持ち上げられると、ふたりの唇が重なった。

 彼と逢うようになったついこの間まで、キスさえもう長い間交わしたことがなかった奈津子は唇を吸われて思わず小さく喘いだ。

(あたたかい… やわらかい…)

 初めて彼にキスをされたとき、奈津子は思わず下着が濡れるのを感じて恥ずかしかったが、それ以上に自分の躰がまだ女であることを思い出させてくれた栗原と隠れたつながりができたことの幸運に感謝していた。

 誰にも邪魔をされることのないふたりだけの部屋で、彼の舌が唇を舐めながら割って少しずつ入ってくる。

 ふたりの吐息が混ざり合う中で唇を甘噛みされた奈津子の喉から呻きが洩れ、彼の舌が絡め合わされると、そのざらざらした感触に耳が熱くなった。

 その熱くなった耳に彼の唇が移ると、今度は耳朶を甘噛みされながら奈津子はささやくような声で名前を呼ばれた。

「奈津子さん…」

「はい…」

 消え入るような声で奈津子は応える。

「こうして奈津子さんに会えてうれしかったです…」

「わたしこそ… 幸せです…」

 肩を抱いていた手がゆっくりと顎から首筋を伝って胸へ下りてくる。

 器用にワンピースの胸ボタンをはずした指が伸びて掌が胸を包んだ。

 握り合った奈津子の手に力が入り、抗う素振りを見せるように首が小さく揺れた。

「あぁ… だめ…」

 ブラジャーをくぐった指先で胸の蕾を捉えられたとき、思わず唇を離した奈津子が小さく声を上げた。

 そんな声が出ることはどのくらいなかっただろうか…

 瞬く間に奈津子の官能に火が点った。

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