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僕の母さん
第12章 破談

帰りの車の中で辰巳と真弓は無口だった。

「やんわりと結婚を反対されたわね」

口を開いたのは真弓だった。
初めから大歓迎されないのは承知の上だったけれど、
やはり結婚を認めるという言葉が得られなかったのはショックだった。

「ごめん…わからず屋の両親で…」

「ううん、そんなことない。
息子の達郎が学生の身でありながら、いきなり見ず知らずの熟女を連れてきて結婚するからと言い出したら私だってあなたのご両親と同じように時期尚早だと待ったをかけるわ」

「でも、これだけは言っておく、
誰がなんと言おうと僕は君を妻として迎えるつもりだよ」

その言葉は嬉しかったけれど、
やはりプロポーズを受諾するのは彼が卒業して社会人として稼げるようになってからにするべきだったと後悔した。

「なあ…むしゃくしゃするから一発やっていかないか?」

辰己はラブホテルの看板を指差して真弓を誘う。

「ごめんなさい…今はそんな気分じゃないの」

初めて真弓は彼の誘いを断った。

それから真弓のマンションに着くまで一言も会話を交わさなかった。

誘いを断ったことに怒っているのかしら?
辰己は前を見据えたまま怖い顔をしていた。

車を降りる際に真弓から彼に口づけを促した。
にもかかわらず、彼はそれに応えようともせずに「また何かあったら連絡するから」と言い残して、さっさと車を発進させてしまった。

『まるで小さな駄々っ子だわ…』

彼の車を見送りながら、真弓は彼からもらったリングをソッと左手の薬指から抜いた。
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