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僕の母さん
第12章 破談
『この部屋だわ…』
ドアの前に立って、真弓はドア横の呼び鈴のボタンを押した。
「どうぞ、入ってらっしゃい」
カードキーを差し込んでドアを開けて部屋に足を踏み入れると、辰巳健太が自宅で迎え入れてくれた時のように柔和な微笑みで真弓を迎えてくれた。
「いゃあ、先ほどはすまなかったね」
まあ、そこにお掛けになってください
そういって真弓にソファーを勧めると、自分はベッドに腰かけた。
部屋は暖房がよく効いていて、じっとりと汗ばむほどだった。
「自宅では妻がいる手前、辛辣な言葉を投げ掛けてしまいましたね。無礼があったことをお詫びいたします」
「いえ…そんな、当然ですわ
私だって一人の子供の親ですから、息子がどこの誰ともわからない女を突然連れてきて結婚したいと言い出したら同じように考え直せと言うと思いますし…」
それに自分は三十路半ばの熟女なのだからなおさらだと思った。
「あなたとは腹を割ってじっくりと話し合いたいと思いましてね」
そう言って彼は腰を上げるとブランデーグラスにブランデーを注いで真弓の前に差し出した。
「まあ、一杯…お近づきの印しに乾杯しようじゃありませんか」
むげに断るのも悪い気がして、真弓はブランデーを喉に流し込んだ。
少し、苦いような味がした。
でも、普段からブランデーなんて口にしないから特に変だとも思わずに飲んだ。
「室温、少し暑いかな?私は寒がりなのでね
設定温度を高めにしてあるのですが…」
「いえ、大丈夫ですわ」
そう言いながらも、真弓は先ほどから汗ばんで気持ち悪かった。
おまけに飲み慣れないブランデーを飲んでしまって、体の中からカッカと燃えるように熱くなっていた。

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