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僕の母さん
第12章 破談

数ヵ月ぶりに辰己壮亮のマイカーでのドライブ…
楽しいはずの二人の会瀬なのに車中では会話が弾まない。

渚のドライブウェイを疾走していたが途中のパーキングで車を停車させると、壮亮が重々しい雰囲気にたまりかねて口を開いた。

「僕に話すことがあるんでしょ?」

「…」

何も言えずに、真弓は左手の薬指からリングを抜き取ると、
そっと彼に差し出した。

「どういうこと?」

「私、やっぱりあなたのプロポーズをお受けできません」

そのように告げるのが精一杯で、真弓はポロポロと涙をこぼした。

「どうして?そりゃあ、少しばかりのすれ違いがあったけれど、君を思う僕の気持ちは変わらないよ」

だから、この指輪は君が持っておいて欲しいと
指輪を乗せた真弓の手のひらを包み込むようにして指輪を握らせた。

辰己壮亮を思う気持ちは何ら変わってはいなかった。
真剣に彼の妻になることを夢見ていたのが本音だった。
けれども、彼の父親である辰己健太の愛人になると決めたからには、父親の健太に抱かれながら嘘をつきとおして息子の壮亮にも抱かれることは出来ないと思った。

隠し通そうとする嘘は必ずどこかでバレる。
その時の彼の失望は計り知れないだろう。
愛するからこそ、彼を哀しませることは出来ないと、真弓は自分から彼の元を去ろうとした。

「あなたには学業をしっかり頑張ってもらって、
ちゃんと卒業してお父様の右腕になって会社に必要な存在になってもらいたいの…
あなた、今のままじゃ大学を中退してまで私を選びかねないわ。そんなのイヤよ、私は、あなたの人生を狂わせる女になりたくないの」

自分の彼女が父親の愛人なんて、彼が知ったら発狂しかねない。
傷は浅いうちにけじめをつけておくべきだと真弓は心を鬼にして彼に別れを告げた。
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