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妻女王様さくら
第1章 キャバクラごっこ
リビングに戻った達郎の視線は、テーブルに無造作に置かれたひとつの布切れに吸い寄せられた。
淡いベージュのシュシュ。ついさっきまで、さくらの艶やかな黒髪をまとめていたものだ。
無意識に手を伸ばし、鼻に近づける。ふわりと広がるシャンプーの香りと、微かに混じる体温の残り香。胸が締めつけられ、息が荒くなる。
「……はぁ、はぁ……さくら……女王様……」
自分でも異様だと思う。だが、指先から伝わる柔らかな感触と香りが、理性を容赦なく溶かしていく。
顔を埋め、何度も何度も吸い込む。その行為に酔いしれた瞬間——背後から柔らかな声が降ってきた。

「……やっぱりね。どうせ私に罵倒されたいんでしょ、変態。」

達郎の肩が跳ねた。振り返れば、腕を組んださくらが立っている。表情は淡く笑っているが、その瞳はすべてを見透かしているようだった。
「そ、そんな……」
「そんなシュシュ、もう使えないわ。」さくらはすっと近づき、達郎の手からシュシュをひったくった。

くるくると指に巻きつけ、楽しそうに見下ろす。
「そうだ、お仕置きに……今度浩一が来た時、このシュシュあげちゃおうかしら。ねぇ、羨ましいでしょ?」

その一言で、達郎の胸の奥で何かが破裂した。
嫉妬と羨望が一気に膨れ上がり、脳が真っ白になった。
さくらの言葉が現実になる光景が鮮明に脳裏に浮かび、呼吸すらまともにできなくなる。

「……っ、やめてください……さくら女王様……それだけは……」
「でも、見たいでしょ? あなたが私の香りに飢えて狂う顔、浩一にも見せてあげたいわ。」
囁く声に、背筋がぞくぞくと震える。抗いたいのに、心の奥底ではその屈辱すら欲している自分がいる。

「どうする?お願いしてみなさいよ。」
さくらはソファの背にもたれ、脚を組み替える。その動作ひとつひとつが、達郎の理性を切り裂く。
「……お願いです……そのシュシュ、渡さないでください……さくら女王様……」

さくらはふっと笑い、指先でシュシュを弄びながら、勝ち誇った瞳で達郎を見下ろした。
「いい子にしてたら……たまに嗅がせてあげる。」

その瞬間、達郎は涙をこぼし、嗚咽混じりに言った。
「ありがとうございます……さくら女王様……」
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