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僕の愛する未亡人
第17章 欲しがる未亡人 本間佳織⑥
「――今日、これから佐藤くんと飲みに行こうって言ってるんですけど、本間さんもどうですか?」
十八時頃。
飯塚冴子は佳織の席の後ろに立ち、腰をかがめて周囲に聞こえないように話しかけた。
佳織の隣の席の理央は、何食わぬ顔でパソコンの画面を見つめている。
十二月も半ばの金曜日。佳織は振り返り、「うーん」と唸る。
会社の空気は少しだけ浮き足立っていて、帰り支度を始めている社員の気配もある。
「今日はまだ仕事残ってるの……難しいかな」
声を潜めて返すと、冴子は肩をすくめて、意味ありげに目を細めた。
「……残念」
ふふっ、と冴子は笑った。
「大丈夫なら、三人で、と思ったのに」
「三人で」――意識した瞬間、佳織の胸がかすかに跳ねた。
冴子の言い方。
先日のようなことを、冴子は言っているのだろうか。そう思うと、佳織の心臓が落ち着かなくなる。
「大丈夫。佐藤くんには変なこと、しませんよ」
柑橘系の香りがふわりと漂い、佳織の耳元を冴子の甘い声が掠めた。
今日は「ソノ日」ではない――そのことを香水の匂いが告げている。
だが、彼女の声はあまりにも佳織の心を揺さぶってしまう。
「ん、も……お」
顔を赤らめて、半ば睨むように冴子を見つめる。
「今度、わたしにも付き合ってください」
そう言うと、冴子はビジネスバッグを持って「お疲れ様です」と声を掛けて、この部屋を出ていった。
耳元が熱い。
あの三人での出来事から――佳織は理央と体を重ねていなかった。
年末の忙しさのせいでもあったし、何より、あの日の余韻が妙に尾を引いていて……
理央と顔を合わせることさえ、少しだけはばかられていた。
「ご、ごめん、行きたかったけど……」
周りに聞こえないように、声を落として隣の理央に謝罪する。
「いーですよ。また次の時っ」
理央はにかっと笑って言った。
軽くて、明るくて、少しも気にしていないように見える声。
――ドキドキしているのは、自分だけなのだろうか。
あの日のことを、同じ熱で覚えているのは自分だけなのか。
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。
理央はパソコンに視線を戻し、指を軽やかに動かし始めた。
その横顔は何も変わらない。
だからこそ、佳織は余計に落ち着かなくなる。
十八時頃。
飯塚冴子は佳織の席の後ろに立ち、腰をかがめて周囲に聞こえないように話しかけた。
佳織の隣の席の理央は、何食わぬ顔でパソコンの画面を見つめている。
十二月も半ばの金曜日。佳織は振り返り、「うーん」と唸る。
会社の空気は少しだけ浮き足立っていて、帰り支度を始めている社員の気配もある。
「今日はまだ仕事残ってるの……難しいかな」
声を潜めて返すと、冴子は肩をすくめて、意味ありげに目を細めた。
「……残念」
ふふっ、と冴子は笑った。
「大丈夫なら、三人で、と思ったのに」
「三人で」――意識した瞬間、佳織の胸がかすかに跳ねた。
冴子の言い方。
先日のようなことを、冴子は言っているのだろうか。そう思うと、佳織の心臓が落ち着かなくなる。
「大丈夫。佐藤くんには変なこと、しませんよ」
柑橘系の香りがふわりと漂い、佳織の耳元を冴子の甘い声が掠めた。
今日は「ソノ日」ではない――そのことを香水の匂いが告げている。
だが、彼女の声はあまりにも佳織の心を揺さぶってしまう。
「ん、も……お」
顔を赤らめて、半ば睨むように冴子を見つめる。
「今度、わたしにも付き合ってください」
そう言うと、冴子はビジネスバッグを持って「お疲れ様です」と声を掛けて、この部屋を出ていった。
耳元が熱い。
あの三人での出来事から――佳織は理央と体を重ねていなかった。
年末の忙しさのせいでもあったし、何より、あの日の余韻が妙に尾を引いていて……
理央と顔を合わせることさえ、少しだけはばかられていた。
「ご、ごめん、行きたかったけど……」
周りに聞こえないように、声を落として隣の理央に謝罪する。
「いーですよ。また次の時っ」
理央はにかっと笑って言った。
軽くて、明るくて、少しも気にしていないように見える声。
――ドキドキしているのは、自分だけなのだろうか。
あの日のことを、同じ熱で覚えているのは自分だけなのか。
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。
理央はパソコンに視線を戻し、指を軽やかに動かし始めた。
その横顔は何も変わらない。
だからこそ、佳織は余計に落ち着かなくなる。

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