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僕の愛する未亡人
第17章 欲しがる未亡人 本間佳織⑥
――いつの間にか、この部屋には佳織しか残っていなかった。
「九時……過ぎてる。はあ……どうしよ」
オフィスにかかる時計を見て呟いた。どこか集中出来ずにいた。ふと、スマートフォンを手に取ると、理央からメッセージが届いている。
「まだいる?」――二十分ほど前の連絡だった。
指が震えたまま、佳織はスマートフォンを握りしめた。
(どうしよう……返したほうが……)
と、思った瞬間。
「――あ、いた」
不意に、入口の方からから聞き慣れた声が落ちてきた。
陽気な声。理央だった。
「よかったぁ。返事ないから、もう帰っちゃったのかと」
理央は少し息を弾ませながら、ドアを閉めて部屋に入ってきた。
冬の夜気をまとったコートには、外の冷たい空気が残っている。
近づいた理央からは、アルコールの匂い。
「もう仕事だーめ! 誰も残ってないじゃん、帰ろ」
軽く言いながら、理央は当然のように佳織のデスクの前まで歩み寄ってくる。
――その距離が、いつもより近い。
佳織はペンを置いたまま、息を呑んだ。
ほんの少し赤い理央の頬。
わずかに潤んだ目。
そして、何より――仕事帰りに寄るには似つかわしくない、どこか落ち着かない理央の雰囲気。
胸がざわつく。
理央の指先が、そっと佳織のデスクに触れた。
「……迎えに来ちゃいました」
小さく、照れたように笑う声に、佳織の心臓が跳ねた。
「ん……もお。飯塚さんと、解散したの?」
「迎えに行って上げなさいって言われた」
「……え?」
冴子は、佳織の気持ちをどこか悟ったように送り出したというのか。
「……本間さん、絶対遅くまで残ってるって飯塚さんに言われたの。僕、ダメだな……飯塚さん、やっぱりすごい」
「むぅ」と口を尖らせて言う。理央の耳はほんのり赤く染まっていた。
「それで……来てくれたの?」
問いかけた瞬間、佳織は気づく。やはり、冴子はすごいのだ。自分の声が、思っていた以上に柔らかかった。
「僕も、会いたかったけど……迎えに行くとか、想像つかなかった」
「ふふ、嬉しい」
言ってしまってから、胸の奥がじわっとくすぐったくなる。
理央の目が、ほんの僅かに見開かれた。
「ほんと……?」
「ほんと」
小さく返すと、理央は息を呑んだように見えた。
その反応が、また佳織の心を揺らす。
オフィスにはもう誰もいない。
「九時……過ぎてる。はあ……どうしよ」
オフィスにかかる時計を見て呟いた。どこか集中出来ずにいた。ふと、スマートフォンを手に取ると、理央からメッセージが届いている。
「まだいる?」――二十分ほど前の連絡だった。
指が震えたまま、佳織はスマートフォンを握りしめた。
(どうしよう……返したほうが……)
と、思った瞬間。
「――あ、いた」
不意に、入口の方からから聞き慣れた声が落ちてきた。
陽気な声。理央だった。
「よかったぁ。返事ないから、もう帰っちゃったのかと」
理央は少し息を弾ませながら、ドアを閉めて部屋に入ってきた。
冬の夜気をまとったコートには、外の冷たい空気が残っている。
近づいた理央からは、アルコールの匂い。
「もう仕事だーめ! 誰も残ってないじゃん、帰ろ」
軽く言いながら、理央は当然のように佳織のデスクの前まで歩み寄ってくる。
――その距離が、いつもより近い。
佳織はペンを置いたまま、息を呑んだ。
ほんの少し赤い理央の頬。
わずかに潤んだ目。
そして、何より――仕事帰りに寄るには似つかわしくない、どこか落ち着かない理央の雰囲気。
胸がざわつく。
理央の指先が、そっと佳織のデスクに触れた。
「……迎えに来ちゃいました」
小さく、照れたように笑う声に、佳織の心臓が跳ねた。
「ん……もお。飯塚さんと、解散したの?」
「迎えに行って上げなさいって言われた」
「……え?」
冴子は、佳織の気持ちをどこか悟ったように送り出したというのか。
「……本間さん、絶対遅くまで残ってるって飯塚さんに言われたの。僕、ダメだな……飯塚さん、やっぱりすごい」
「むぅ」と口を尖らせて言う。理央の耳はほんのり赤く染まっていた。
「それで……来てくれたの?」
問いかけた瞬間、佳織は気づく。やはり、冴子はすごいのだ。自分の声が、思っていた以上に柔らかかった。
「僕も、会いたかったけど……迎えに行くとか、想像つかなかった」
「ふふ、嬉しい」
言ってしまってから、胸の奥がじわっとくすぐったくなる。
理央の目が、ほんの僅かに見開かれた。
「ほんと……?」
「ほんと」
小さく返すと、理央は息を呑んだように見えた。
その反応が、また佳織の心を揺らす。
オフィスにはもう誰もいない。

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