この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
僕の愛する未亡人
第17章 欲しがる未亡人 本間佳織⑥
静まり返った空間に、二人の呼吸だけが重なった。
――出退システムで佳織は退勤ボタンを押すと「トイレに行ってくる」と理央に告げた。
理央は自席に座りながら「はーい」と手を上げて、ひらひらさせている。
冴子の気配がまだ少し体にまとわりついている気がして、佳織は逃げるようにトイレへ向かった。
つまり、ほんの少しだけ気持ちを整えたかったから。
冴子が言ったにせよ、理央が迎えに来てくれたという事実だけで、胸の奥がくすぐったくて仕方がない。
用を足して外に出ると、女子トイレの前には、理央が立っていた。
廊下に電気がついているとはいえ、この時間は薄暗い。
「わ、どしたの……もうちょっと待っててね」
わずかに声が裏返る。
理央の目つきは――いつもの優しい目付きではなかった。
「本間さん」
喉から絞り出すような理央の声が聞こえた。
肩を掴まれて、そのまま女子トイレに連れて行かれる。
「ちょ……佐藤くん……?」
理央は返事をしない。
代わりに、佳織の体は個室の中に押し込まれた。鍵を締めると、理央は深く息を吸い込むようにして、顔を伏せた。
「……迎えに来たけど……」
その声は低くて、どこか震えていて、普段の理央とはまるで違う声色をしていた。
佳織の胸がきゅっと強く縮む。
「ま……待っててって言ったよね?」
自分でも驚くほど、頼りない声になっていた。
理央はゆっくり顔を上げた。
暗い個室の中でも、目だけがはっきりしている。
「ごめん、待てない」
理央は一歩近づく。
それだけで、個室の空気が変わった気がした。逃げようとすれば触れてしまう距離に、もう立たされている。
佳織は反射的に壁へと背を預けた。
「……ん、んん」
理央の唇によって、佳織の唇が奪われる。
いつもの理央の軽さも、遠慮もそこにはなかった。
ただ、抑えきれない思いだけが、真っすぐに迫ってくる。
唇を何とか離し、佳織は抵抗の声を上げる。
「だ、だめ、ちょ……っと」
だが、小さくて柔らかい体はいとも簡単に抱きすくめられてしまう。
「ね……? おうち、行っても、いいから」
佳織は理央の背中を叩き、小さな声で焦りながら言う。
「やだ。今がいい」
「い、今がいいって、嘘……んん、や、やだ」
――出退システムで佳織は退勤ボタンを押すと「トイレに行ってくる」と理央に告げた。
理央は自席に座りながら「はーい」と手を上げて、ひらひらさせている。
冴子の気配がまだ少し体にまとわりついている気がして、佳織は逃げるようにトイレへ向かった。
つまり、ほんの少しだけ気持ちを整えたかったから。
冴子が言ったにせよ、理央が迎えに来てくれたという事実だけで、胸の奥がくすぐったくて仕方がない。
用を足して外に出ると、女子トイレの前には、理央が立っていた。
廊下に電気がついているとはいえ、この時間は薄暗い。
「わ、どしたの……もうちょっと待っててね」
わずかに声が裏返る。
理央の目つきは――いつもの優しい目付きではなかった。
「本間さん」
喉から絞り出すような理央の声が聞こえた。
肩を掴まれて、そのまま女子トイレに連れて行かれる。
「ちょ……佐藤くん……?」
理央は返事をしない。
代わりに、佳織の体は個室の中に押し込まれた。鍵を締めると、理央は深く息を吸い込むようにして、顔を伏せた。
「……迎えに来たけど……」
その声は低くて、どこか震えていて、普段の理央とはまるで違う声色をしていた。
佳織の胸がきゅっと強く縮む。
「ま……待っててって言ったよね?」
自分でも驚くほど、頼りない声になっていた。
理央はゆっくり顔を上げた。
暗い個室の中でも、目だけがはっきりしている。
「ごめん、待てない」
理央は一歩近づく。
それだけで、個室の空気が変わった気がした。逃げようとすれば触れてしまう距離に、もう立たされている。
佳織は反射的に壁へと背を預けた。
「……ん、んん」
理央の唇によって、佳織の唇が奪われる。
いつもの理央の軽さも、遠慮もそこにはなかった。
ただ、抑えきれない思いだけが、真っすぐに迫ってくる。
唇を何とか離し、佳織は抵抗の声を上げる。
「だ、だめ、ちょ……っと」
だが、小さくて柔らかい体はいとも簡単に抱きすくめられてしまう。
「ね……? おうち、行っても、いいから」
佳織は理央の背中を叩き、小さな声で焦りながら言う。
「やだ。今がいい」
「い、今がいいって、嘘……んん、や、やだ」

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


