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僕の愛する未亡人
第4章 はじめての嫉妬

会社を出て歩く間も、冴子は取引先での注意すべき点を簡潔に説明していく。
理央は横顔を見ながら、頷くだけで精一杯だった。
昨日の温もりを、ふいに思い出してしまうからだ。
「昨日、遅かったし、やっぱり疲れてるよね? 今日締め切りのものとかないはずだし、早く帰ってね」
昨日のことなど何もなかったような態度のくせに、不意に尋ねられ、理央ははっと我に返る。
「む、無理しません」
冴子はちらりと横目で見て、小さく笑った。
「何その返事」
その笑みに、昨夜の冴子が一瞬だけ重なって、理央の心臓はまた速くなる。
今日は社用車で回るようで、駐車場に向かう冴子の後ろを、理央はとことこと小さな歩みでついていく。
助手席のドアを開けて乗り込むと、車内には色々な匂いが入り混じるが、隣に座る冴子の香りがふわりと漂う。
昨日とは違う、柑橘系の香水の香り。さすがの冴子も今日は〈ソノ日〉ではないらしい――。理央の心はざわつき、胸の奥がじんと熱を帯びる。
ベルトのバックルを差し込む手がわずかに震えているのを、冴子が気づいたのかどうかはわからなかった。
エンジンがかかり、車が静かに発進する。
その低い振動が、妙に体の奥まで響いてくるように感じられた。
「…今日はさすがに、香水の匂い……いつものやつ」
助手席からぼそりと呟くと、冴子は視線を前に向けたまま、わずかに笑った。
「仕事中にそんなこと気にしてるの?」
冴子はハンドルを握る手を少し緩め、ちらりと横目で理央を見た。
怒らせてしまっただろうか、「え、あ、違っ……」と理央は首を振る。
香水の匂いを気にするなんて、普通の上司と部下の会話ではありえない。
冴子はそれ以上のことは言わなかった。
でも、昨夜を知ってしまった二人には、それが妙に自然なやりとりにも思えた。
*
午前中の外回りが終わり、冴子は会社に帰る途中コンビニに寄るという。ここは比較的郊外で、コンビニには駐車場があった。
車を停めると「二人分、コーヒー買ってきて」と千円札を渡された。
冴子がブラックを飲むのか、甘いものを好むのかさえ分からなかったが、ブラックの蓋つきのアイス缶を二つ買い、冴子に手渡す。
理央は横顔を見ながら、頷くだけで精一杯だった。
昨日の温もりを、ふいに思い出してしまうからだ。
「昨日、遅かったし、やっぱり疲れてるよね? 今日締め切りのものとかないはずだし、早く帰ってね」
昨日のことなど何もなかったような態度のくせに、不意に尋ねられ、理央ははっと我に返る。
「む、無理しません」
冴子はちらりと横目で見て、小さく笑った。
「何その返事」
その笑みに、昨夜の冴子が一瞬だけ重なって、理央の心臓はまた速くなる。
今日は社用車で回るようで、駐車場に向かう冴子の後ろを、理央はとことこと小さな歩みでついていく。
助手席のドアを開けて乗り込むと、車内には色々な匂いが入り混じるが、隣に座る冴子の香りがふわりと漂う。
昨日とは違う、柑橘系の香水の香り。さすがの冴子も今日は〈ソノ日〉ではないらしい――。理央の心はざわつき、胸の奥がじんと熱を帯びる。
ベルトのバックルを差し込む手がわずかに震えているのを、冴子が気づいたのかどうかはわからなかった。
エンジンがかかり、車が静かに発進する。
その低い振動が、妙に体の奥まで響いてくるように感じられた。
「…今日はさすがに、香水の匂い……いつものやつ」
助手席からぼそりと呟くと、冴子は視線を前に向けたまま、わずかに笑った。
「仕事中にそんなこと気にしてるの?」
冴子はハンドルを握る手を少し緩め、ちらりと横目で理央を見た。
怒らせてしまっただろうか、「え、あ、違っ……」と理央は首を振る。
香水の匂いを気にするなんて、普通の上司と部下の会話ではありえない。
冴子はそれ以上のことは言わなかった。
でも、昨夜を知ってしまった二人には、それが妙に自然なやりとりにも思えた。
*
午前中の外回りが終わり、冴子は会社に帰る途中コンビニに寄るという。ここは比較的郊外で、コンビニには駐車場があった。
車を停めると「二人分、コーヒー買ってきて」と千円札を渡された。
冴子がブラックを飲むのか、甘いものを好むのかさえ分からなかったが、ブラックの蓋つきのアイス缶を二つ買い、冴子に手渡す。

