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魅惑~甘く溺れる心と身体。
第9章 なつめと大根。

「片付けも料理もいいよ、俺もできるし。それより、お腹が痛む? いや、腰かな?」
 最後の方はぼそぼそ呟いているからあまりよく聞き取れなかった。

「へいき。いつものことだから……ホルモンバランスの乱れが原因みたい……」
 また、にこって笑うあたし。

 唯斗さんは床に蹲っているあたしの膝裏に腕を差し込んで掬い上げた。
 あたしの身体が宙を浮く。

「ゆ、ゆいとさっ!」
「ここは冷たいから、余計に身体を冷やしてしまう。ソファーのある所に移動しよう」
 お姫様だっこをされて慌てるあたしに、唯斗さんはそう言うと、ソファーに下ろしてくれた。
「さあ、あたたかくして」
 役立たずなあたしにどこまで世話を焼いてくれるんだろう。

 マグカップにお白湯を注いでくれた後、自室から毛布を持ってあたしに掛けてくれる。
「澪ちゃんはいつも頑張ってるからね……」
「いただきます……」
 マグカップにそっと口を付けてゆっくり口の中で転がして飲む。
 何故だろう、さっきよりも身体が楽になった気がする。

 ふうっと湯気を飛ばしてもう一度飲む。
 レースカーテンから注ぎ込まれる優しい朝日があたしを包み込む。
 時計の針がカチコチと規則正しい音を奏でていた。

 今までこんなにゆったりした優しい気持ちになったことはあったかな?
 初めてかも――ううん、過去にお母さんに捨てられて泣いていたあの時、唯斗さんが抱きしめてくれたあの感覚と似ている。


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