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ラブドール♡ 優莉花
第1章 第1章:ラブドール、輝く。
第11話


60分の壁



《現在時刻:開始から58分経過》

――ステージ上。

彼女の表情に変化はない。
けれど、それが逆に恐ろしいと、見守る者たちは感じていた。

振動は、もはや「刺激」ではなかった。
それは、思考のノイズ。
呼吸のリズムを狂わせる、無音の嵐。

 

【制御室】

「1時間、ここまでは順調……」

「でも、あの“無反応”は、逆に危ういかもな」

「反応してる方が、まだ安全なんだよ。心が折れきらないうちは」

「……だよな」

操作パネルのランプが、ひとつ光る。

――“深層ランダムシフトモード・解放”。

 

【ステージ上】

カチリ。

今度は、間隔と強度を完全にランダム化した振動が、全身に波紋のように走る。

まるで、地中から湧き上がる地震。
あるいは、遠雷のような、リズムのないリズム。

「っ……」

ほんの一瞬、下唇がかすかに震えた。

でも、それだけ。
それ以上は、何も崩れなかった。

 

(時間が……止まってるみたい)

彼女は、自分の手のひらを見つめる。
小さく汗ばんでいるが、指は静かだった。

(これが……“試練”か……)

想像していたものとは、どこか違っていた。

もっと劇的に、もっと派手に、
感情が爆発しそうなものだと、思っていた。

けれど――

静かだった。

ただただ、静かで。
ただただ、自分の“意志”とだけ、向き合っていた。

 

「あと…2時間……」

小さく、つぶやく。

 

《60分経過》

会場がわずかにざわめく。

その中で彼女は、微笑んだ。
誰にも見えないほどの、ほんのわずかな笑みだった。

 

(ここからが、本当の“無”の戦いだ)

自分の意志だけを武器に、彼女は第二フェーズの終盤へと向かっていく。

その心には、たったひとつの言葉だけが残っていた。

 

「見てて、いいよ。私が、見せてあげる」

 
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