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略奪貴公子
第11章 仮面舞踏会
人々が踊るその周りでは、まだ年若い少年たちが軽食を配って歩いていた。
例えば…ブイヨンにパンを浸して食べる、ソップという料理──これは宴に限らずどんな食卓にも現れる馴染みある料理だ。
他にも、卵、肉、魚や野菜を詰めたパイ
チーズと鶏肉のサラダ
そしてトロリとしたシチューやポタージュ
砂糖漬けの果実
それらの匂いが客人の鼻をも贅沢に饗す。
お決まりのビールと共に赤いワインもグラスについで振る舞われていた。
「……」
酒を片手にパイを頬張る──そんな貴族たちを横目で見ているクロードが、レベッカの視線に気が付いて、靴をならして立ち止まる。
「…あなたは此処を美しいと思いますか?レベッカ」
「──…?」
前ふりなしに投げ掛けられたその問いは、彼女が即答するには難しい──。
「美しい?いったい何が言いたいのですか?」
「…何故でしょうね」
彼が静かに身体を離して彼女の方に向き直ると、ちょうど楽団の演奏が止まった。
…次の曲に入ろうとしているのだ。
「誰もが一度は憧れる筈だ…庶民も貴族も、この世界に。社交界と呼ばれる華やかな世界に憧れて、そして足を踏み入れる」
「……」
「憧れ、そして──幻滅する」
何故でしょうね
そう問い掛けるクロードの笑みに、レベッカは上手く返すことができない。
「…何故ですか?」
だから彼女は素直に聞いた。
「此処に在るのは、美しいドレスに宝石、建築、そして料理や音楽……。しかし当の人間たちがその美しさに追い付いていないからです」
彼は細めた目で周囲をぐるりと見渡す。その瞳に籠められた想いは彼にしかわからないが。
スッ──
向かい合う二人の間
クロードから彼女へと、そっと手が差し出された。
「──今宵限り、此処を真に美しい場所へと変えて頂けないだろうか。私と共に……レベッカ」
まるで陶器のような白さを持ち
彫刻のような曲線美をもつ彼の指
「──…」
しかし重ねた指から伝わるその体温は、無機物とはほど遠い温かさだった。
一瞬の沈黙
それが会場を包んだように…彼女は感じた。