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略奪貴公子
第12章 怪盗の正義
「……」
クルクルクルクル.....
高く放り投げられたワイングラス。
それらはくるくると回りながら、ホール中央に下がったシャンデリアの横をかすめる。
クロードを見張っていた衛兵は不意に投げられたそれを呆然と見ていた。
何を言うこともできない間抜けた顔で
きれいな弧を描いて宙を進むグラスを追い、天井を見上げていた。
「──…!?」
クルクルクル...
「──あ!!」
グラスが一瞬だけその動きを止めて、そして落下を始めたとき、彼等はようやく我にかえった。
「あ…!危ないぞ!!」
バリーンッッ!!!
身の危険を感じた彼等が、頭をかかえてその場に座り込む。
それと同時に、二つのワイングラスは衛兵たちのすぐ横の、軽食が置かれたテーブルの上に勢いよく落下した。
グラスはテーブル上の食器の上に落ちた。
そして瞬時に粉々に砕け散る。
「きゃあああーー!!」
ガラスの割れる鋭い音によって、会場は悲鳴に包まれた。
食器は銀製のものだったので割れることはなく、ほとんど食べられた後の僅かな食い残しと一緒に辺りに飛び散った。
「おい!怪我はないか!?」
テーブルの周りには衛兵以外の人間がいなかったようで、ガラスで怪我をした者はいなかった。
「きゃああ…っ、スープがぁ!」
しかし飛び散った食べ物が婦人のドレスや紳士のコートを汚し、小さな悲鳴がざわめきの中に湧き上がる。
「くそっ、やはりあの男!」
衛兵が鬼の形相(ギョウソウ)で顔をあげる。
「──い、いないだと!?」
だが怪盗がいる筈のその場所に、すでに人影はなかった。
「しまった逃げたぞ!……っ…目を離した隙にいなくなった!」
「あの窓から外に逃げたに違いない!追うぞ、俺たちも急いで外へ!」
彼等は慌てて出口へ向かう。
混乱した城内。
外に出ようとごった返す貴族たちが出口付近に集まり、衛兵たちの行く手をふさぐ。
その貴族たちを押し退け、何とか外へ出た彼等だが…
「いない……!」
暗がりの中に、すでに怪盗の姿はなかった。
まだ遠くには行っていない筈だ。
彼等は仕方なく、四方(シホウ)に分かれて捜すことにしたのだ。