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略奪貴公子
第13章 目をトジ 声をヒソメテ


 ところが、だ。


「…なぁ、もうとっくに逃げたんじゃないのか」

「そうだな、こんな広い庭、探すのも面倒だ」

「今回は何も盗まれてないんだろう? なら旦那様には逃げられたと報告すればいい」




「……!」



 信じられない

 間一髪のところで、衛兵たちが引き返していく。

 靴音が遠ざかり、話し声が聞こえなくなり…そのうちいなくなった。

「か、帰った……助かった…?」

「…ふふっ、怠け者の兵たちで命拾いしました」

 クロードもホッと緊張をとく。

「強運も味方につけてこその勝者ですからね」

「え、ええ、そうですね。ただ強運というよりは、悪運かも…?」

「面白いコトを言いますね」

「べつにそういうつもりでは…っ。はぁ」

 緊張がとけた瞬間、レベッカはどっぷりと疲れに見舞われた。走ったわけじゃないから、気疲れだ。

 安堵とともにクロードの胸に寄りかかる。

「あの……ありがとうございますクロード。わたしを連れて逃げてくれて」

「あなたを招待したのは私なのに、置いて逃げるなんて有り得ませんよ」

「それもそうです…ね?…いえ、来ると決めたのはわたしなのでそれは関係ありません。

 ──ところで、いつまでこの手はこのままですか?」

「…はて」

「この手…この手ですっ」

 仮面に蓋をしてレベッカの視界を覆う彼の手に、彼女は上からそっと触れた。

「今がチャンスでしょう?早く逃げないと」

「……フッ」

「って…?──んん…っ」

 しかし彼女の言葉はクロードの唇によってせき止められる。

「……逃がすものか」

「…っ…!?」

 逃がすものか……?

 逃げなければいけないのは、自分なのに…?

「折角ですから…この状況を楽しみませんか?」

 この声色だけでわかる。

 彼は今、不敵な笑みを浮かべているに違いない──と。



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