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略奪貴公子
第14章 二人の男

「こんな時間まで散歩とは、ふざけてるな」

「──…おや、あなたでしたか」

 クロードの前に現れた青年は、肩についた木の葉を手で払いながらそう言った。

「レベッカをどこに連れ出していた?」

「……、舞踏会です」

「……」

 クロードの返事を聞いて青年は眉を潜めた。

 そして彼の臙脂(エンジ)の瞳が、レベッカの乱れたドレスに向けられた瞬間、その表情がさらに険しくなったように見えた。

 ──クロードの前に現れたその男はアドルフ。レベッカの幼馴染みだったのだ。



「舞踏会だと?ハッ」

 口の端では笑っているが、その瞳は笑っていない。

「貴族どもの遊びなんて俺にはわからないが……、なんだ? 舞踏会ってのはそんなに激しいダンスでもするのかよ」

「……」

「──…まぁ、どうでもいい」

 彼は自分の頭に手をやり、溜め息をついて髪を掻きむしった。

「──…」

スッ──

 そして顔をあげクロードを正面から睨み付けると、アドルフは腰にさげていた剣を抜き取り、クロードに剣先を突きつけた。

 無言で向けられた剣先に、クロードもその口許から笑みを消した。

「…何のつもりですか?生憎、舞踏会に出たのは彼女自身の意思です。私が無理矢理 連れ出したわけではない」

「……ああ、そうだろうな」

 アドルフは素直に頷いてみせた。

「レベッカはあんたに惚れてる」

「…っ」

「…本気で惚れてる」

 彼はレベッカと長い時間をともにしてきた。だから、たとえ言葉に出さなくともわかってしまう。

「いつも意地はって強がってるが、わかりやすすぎるんだよ…そいつは」

 アドルフは、眠るレベッカを顎で指し示した。

「あんたほどの男なら惚れちまうのも無理ないな?伯爵」

「…それは嬉しいことを言ってくれますが」

 クロードには本題が見えなかった。

「──何故…剣を突きつけられているのか、その説明をしていただけるだろうか。こちらとしてもあまり愉快な気分ではいられないので」

「……」

「答えて下さいますか?」

 クロードが聞き返した。


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