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略奪貴公子
第15章 人相書き
「エドガー様が、舞踏会に……?」
「そうさ。都合が悪いことでもあったかい?」
「いいえ…っ」
“ こんな身近な人まで会場にいたなんて……!そんな…わたしも行ったとバレている?…でも仮面をつけていたし、ドレスも化粧もいつものわたしと違ったもの ”
「問題ありだエドガー。領主である私が城をあけていたのだから、その間、長子のお前は我が城を守る立場だろう。遊びに出歩いていい立場ではない」
「ごめんよ父上。だってバイエル伯爵がどうしてもと誘うんだ。断れなかったんだよ」
「そんなものは言い訳にもならん」
「悪かったって。でもお陰で俺は怪盗の正体を見れたんだ。役に立てるよ」
「?」
勝手な外出を公爵に咎められたエドガーは、軽薄に笑って誤魔化し、壁際のメイドに合図を出した。
合図されたメイドはいちど部屋を出たが、すぐに、何かをかかえて戻ってくる。
それをエドガーの席まで運んだ。
「──…さっそく描かせたんですよ。宮廷画家の名作です」
「それは…!?」
レベッカだけでなく、他の夫人や子供たちにもどよめきが広がった。
「人相(ニンソウ)書きさ」
人の胴体ほどの絵画を自慢げにひろうする。
「あの夜見た怪盗の顔を、すぐに絵におこさせました。これが近ごろ辺りを騒がせている盗っ人の正体です、父上」
「しかし、あの夜は仮面舞踏会だったと聞いたぞ?怪盗は仮面を付けていたのではないのか?」
「まぁ、多少の想像ははいっていますが」
多少の想像?でもこの顔は──
「…ふむ、ところで見覚えのある顔だ。何処で会ったか…。このように目立つ容姿であれば忘れないように思えるが」
ウェーブがかかったブロンドの髪。
エメラルドグリーンの瞳。
金色がまざった長いまつ毛。
上品に整えられた細い眉。
鼻筋のとおった小鼻と、緩やかに微笑む唇。
「……!」
想像なんてものじゃない。
エドガーが画家に描かせたこの人相書きは、間違いなくクロード。クロード・ミシェル・ジョフロワ・ド・ブルジェ伯爵の顔だった。