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略奪貴公子
第3章 潜む影には……

 左右から垂れ下がったレースカーテンの向こうには、窓越しのバルコニーが見えている。

 彼女は夜着の上にガウンをはおり、窓辺にそっと近づいた。

 ひんやりとした空気。窓を開ければわずかに風が吹き込んだ。

“ …あっ…いい香り… ”

 風と一緒に甘い香りが、彼女の鼻をくすぐった。

 広々としたバルコニーの、さらに奥へレベッカは足を進めて、手すりに指をかける。

 見下ろしたそこには手入れの行き届いた、公爵邸自慢の庭園が広がっていた。

 庭園の中央には噴水が置かれ、ぐるりと囲むように花壇がある。

 花壇の列は曲線を描きその周囲をさらに囲みながら、まるで噴水の波紋のように広がって、上からだと花の迷路にも見えた。

 花壇を彩る花は、暗くて目視できないが

「この香り…」

 薔薇の香りだ…。

 こんな季節に咲くなんて。珍しい。

 甘い匂いに包まれて……彼女の寂しさもほぐれていく。

 レベッカは目を細めて手すりに腕を預けた。



 こんな瞬間でしか…

 わたしはひとりの女に戻れない。

 道具としての貴族の娘ではなく、ひとりの女、生きた人間として──。






ガサッ...ッ


「──」


 ところが、目を細めていたレベッカは、不意をつく音に反応して辺りを見回した。



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