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略奪貴公子
第16章 宝を守る武器
カミルが両手にのせた皿の上には、パイ生地の焼き菓子が積まれていた。芳ばしい匂いが調理場に漂っている。
「レベッカさまも、食べて?」
「あなた達が作ったのですか?」
「…っ、申し訳ありません」
主の許可も得ずに、城外の子どもに勝手に菓子を振る舞うなんて…おとが目のない筈がない。
料理人とメイドは、レベッカの顔色を伺って小さくなってしまった。
──けれどレベッカは笑顔だった。
「良かったわね、カミル」
「うん!ほら、これ…」
「──…ん」
パクッ
カミルがひとつを彼女の口に押し付ける。
焼きたてでまだ熱の残ったパイは、噛めば中からトロッとした甘い砂糖が口に広がる。煮詰めた砂糖から果実の酸味があとを追ってやってきた。
「美味しい…わね」
「でしょ?」
「あっ、いけないこぼれた…!」
いきおいでかじったせいで、パイ生地の欠片がドレスの胸元にこぼれ落ちていた。
ついでに口のまわりにもちらほら…
「レベッカさま、汚れちゃってる」
「…あら…ふふ、本当ね」
もったいないね
レベッカは舌でペロリと欠片を食べる。行儀がいいとは言えない。
そんな彼女を見て料理人達もやっと気を休めたらしく、穏やかに笑っていた。