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略奪貴公子
第3章 潜む影には……

「……」

「……!?」

 城の人間であるレベッカに見つかったにもかかわらず、男は至って平静である。

 レベッカは目をそらすこともできずにバルコニーから彼を見下ろしていた。



──スッ



 すると不意に、此方を見上げていた白いマスケラが横を向く。

 その目線の先へ、彼女もつられて顔を向けた。

“ 松明(タイマツ)を持った誰かがいる…? ”

 遠くに数個の灯りが見えた。その正体は衛兵たちだ。

 彼等は周囲を見回しながら、徐々に此方に近づいていた。

「──っ、見あたらないな…」

「何処に行った?あの男…!」

 数人の衛兵は息を切らして道を駆け走り、そして公爵邸の外柵の前にたどり着く。

「この中に隠れたかもな」

「入るか?」

「……いや、待て。ここは確かモンジェラ公の城だったはず。後で面倒なことになるぞ」

 入る勇気のない彼等は、鉄の柵に手をかけて悔しげに中の庭園を眺めている。

 そんな彼等のやりとりから、今の状況がのみこめてきたレベッカ。

「あの人達が追っているのって、きっと……」

 レベッカが再び庭園に目を戻すと、変わらずそこにはあの男がいる。

「どうする?戻るか?」

「いや…調べる必要はあるよな」

 ほどなくして、腹をくくったひとりの衛兵が中に入ろうとしていた。

「あっ、あの!」

「──っ、な、なんだ?」

 柵をよじ登ろうとした衛兵は不意打ちの声に大きく動揺する。

 そして声の聞こえた方に顔をあげ、バルコニーに人がいたことに気付いた。

「…っ…これは失礼を…!」

 急いで降りた衛兵は謝罪とともに彼女に向き直った。

「我々は怪しい者などでは…ッ」

「……」

 彼等はバルコニー上のレベッカをじっと観察している。

 彼女がどういった身分の人間かを判断しようとしていた。

 レベッカは出来る限りの落ち着いた声で、衛兵たちを問いただす。

「そんな所をよじ登って、どうなさるおつもり?」

「我々はある男を追っている最中でして、ここに入り込んだ可能性もあるものですから…」

「──そう」

 わかりきってた事だけれど。

 衛兵の返事をうけて、やっぱりかと溜め息をつくレベッカ。


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