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略奪貴公子
第18章 退屈な少年

 男の野太い声が夜の畑に響く。

 そして、みながその声に反応して一斉に動き出した。

カン!カン!カン!
カン、カン、カン!カン!カン!

 人々は手に手に農具や金具を持ち、それを打ち鳴らし始めたのだ。

 それを合図に林の奥から次々と獣が現れる。

 ──それは鹿の群れだった。十数匹の鹿が柵を飛び越えて畑の中に入ってきた。

カン!カン!

 人々は鹿の群れに向かって音を鳴らして威嚇する。

「食べるなこの野郎!」

「あっち行け!あっちへ行けー!」

 鹿たちは、やっと顔をだしたばかりの柔らかい野菜の新芽を狙っていた。

「やめろ食べるなっ!」

 その鹿たちを追い払おうと、人々は音を鳴らしながら鹿の方に走っていった。

 人が近づくと獣はいったん食べるのをやめて逃げていく。けれど、すぐに別の野菜を狙って場所を移すだけ。



「──?」

 クロードはその一連の様子を目撃しながら、村の人々のやっていることに疑問を抱いた。

「…何ですかあれは」

 人間と獣の鬼ごっこ

「彼等は何をしているのです?」

「毎夜、あのように野菜を狙う獣を追い払っているのです」

「…だが」

 それにしては不自然。

 畑を荒らす鹿に対して、人々は音で威嚇するだけ。威嚇するだけで攻撃してこないのだから…わざわざ逃げる必要もない。

 悠々と新芽を啄む鹿──

「この畜生め…!」

 汗を流し、声をからし、…しかし人々の努力は空回りだ。


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