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略奪貴公子
第19章 口止め

「扉を閉めなさい」

「……」

 レオが入ってきたのを確かめ、夫人が命令する。

 彼は黙って言うことを聞いた。

「あなたはクロードの付き人なのよね?」

「そうですが」

「可哀想ね…あなたみたいな優秀な者が、あんな子の世話を任されるんじゃあ…」

 一転、余裕の態度で話しはじめた夫人は、身に纏っていた外出用の長いローブを椅子にかけた。

「…私は優秀と呼ばれるにはまだ浅い新人です」

「いいえ、あなたの利発さは話すだけでも伝わるわ」

 彼の方に向き直り、意味ありげに微笑む。

「わたくしは、あなたをダニエルの付き人に迎えたいと思っていますのよ」

「私を、で御座いますか。何故、ダニエル様なのでしょう」

「悪い話ではないはずよ?」

「……」

「考えてごらんなさい、この伯爵家を継ぐのは兄のダニエルですもの…。クロードではないわ。こちら側についた方が、あなたにとっても得だと言っているのよ」

 夫人は話の核心に進みだした。

「──私に何をしろと?」

「わかっている筈よ、あの子のこと…クロードがレイモン伯爵から金の腕輪を奪ったことを」

「──…」

「あの子が隠し持っている腕輪を見つけ出して、盗みの証拠として使えばいいの」

 つまり

 クロードを売れと

 夫人はそう言っている。

「ふふ……」

 夫人はレオに歩み寄り、彼の右肩に手を添えた。

「迷わなくてもいいのよ?あの子の日頃の行いを考えれば答えは決まっているのではなくて?」

「……、そうですね」

「賢明ね」

「クロード様の、あの悪趣味さと意地の悪さはお墨付きだ。盗みなどと、愚かなことに手を染めて……」

「そ、そうよ。ほら…っ、あの子への未練なんて少しもないのでしょう?気づいたなら、言った通り盗みの証拠を──っ」


パシッ


「──…っ」


 レオは自身の肩におかれた夫人の手を振り払った。



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