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略奪貴公子
第22章 決意の涙
「……あ、ありがとう、アドルフ」
呆気にとられていたレベッカが、時間をおいてようやく口を開いた。
アドルフはしばらく項垂れていた。レベッカが襲われていたせいで血が沸騰していた頭を、鎮めようとしている。
「あなたが来てくれなかったら、わたし今ごろ…」
「言うな…!」
「…っ、ごめんなさい」
「いや、謝るな、そうじゃない…」
苛立ちと葛藤がみてとれる。彼女を辱められて許せない気持ちと、彼女が知らなくていいことまで話してしまった後悔と…。
「…悪い。さっきのは、お前に聞かせる話じゃなかった」
「ううん、知れてよかったわ」
「……」
顔をあげて、無言でレベッカを見つめるアドルフ。
彼はそっとベッドに近付いて手を伸ばし、彼女の栗色の髪を優しくすいた。
そのときの彼の表情には、何ともいえない哀愁が漂っていた…。
「アドルフ……?」
「──…」
彼の真剣な視線にさらさらてなお、レベッカは乱れた服も直さずに、無警戒に見つめ返す。
そんな彼女の表情には、まぎれもなく安堵が滲んでいた。
目の前に現れた幼馴染みは、場所も時間も、彼女にとって唐突すぎる。その筈なのに彼女は安心しきっていた。
好意と、信頼……。
それが伝わるには十分な態度で、レベッカがアドルフを見上げる。