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略奪貴公子
第22章 決意の涙

 アドルフは空いた手をレベッカの背中に回し、そっと身体を抱き寄せた。

「俺と逃げよう」

「──…」

 レベッカは驚いて目を見開く。

「ここにいては駄目だ。お前は公爵夫人じゃない。──レベッカだ。レベッカに戻れ…!」

「……アドルフ」

「伯爵とのことも…辛いことも忘れろ。今はただ逃げてくれ。この城を出て、この街を離れよう。

 ──お前は、解放されるべきだ…!」

「解放され、る…?」

 そしてレベッカは瞼を下ろした。



 解放──

 なんて素敵な響き──



 レベッカは目を閉じたまま口許に柔らかな笑みを浮かべていた。

 その顔を、アドルフの胸にあずけて。

“ すべてを捨てられる… ”

 この出口のない苦しみの発端が、わたしが貴族であることに起因するのならば…

 それを捨ててもいいのかしら

 解放されても許されるの?

 ああ、そうよ

 まだ幼かった頃──

 父と母が生きていた頃──

 身分も立場も政略も
 無縁のものだったあの頃。

 すべてを捨てて、生きられる保証なんて何処にもない。けれどアドルフがいてくれるなら、きっとわたしを守ってくれる。

 わたしの隣で、わたしと共に歩いてくれる。

「…それが、わたしの本当の幸せなのかもしれないわ」

 わたしはきっと待っていた。

 いつかわたしを助けだす、お伽の国の王子様を。


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