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略奪貴公子
第22章 決意の涙


「──でもねアドルフ」


「……」


「……わたし……もう無理なのよ」


「……っ」


「あなたと一緒に逃げたくても、わたしには、この城で待たなくてはいけない人がいるから…」


 レベッカはアドルフとの間に手をいれて、抱き寄せる彼の胸を静かに押し返した。

 そして、じっと俯いている。

 アドルフは尋ねた。

「──…伯爵のことか」

「……」

「あの男を待ってるのか…!?」

「…ええ」

 素直にうなずいたレベッカ。

 今度こそアドルフは苛立ちを隠せない様子だった。

「あの男の正体を知っているんだろう…っ」

「…うん」

「捕まるのも時間の問題だ。どこまで信用できるのかもわからない…!」

「それも知ってる」

 レベッカはたんたんとした様子で答える。

「クロードが公爵家の家宝を狙っていることも知っているわ」

「…家宝…を、だと?その事を公爵は…?」

「ご存知ないわ。まだ誰にも話してないもの」

 早く話さなければ、このまま彼の計画通り、首飾りは盗まれてしまうかもしれない。

 それをわかっていながら、レベッカはクロードを密告することができないでいた。


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