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略奪貴公子
第22章 決意の涙

「──…もしその話が本当なら」

 伯爵の狙いが公爵家の家宝なら

「お前は伯爵に利用されたんじゃないのか」

 厳しい現実だが、アドルフは率直に、残酷な事実を告げた。

「…っ」

 レベッカは…切な気に笑うだけだ。

「…それは…まだわからないわ」

 彼の気持ちなんて、彼にしかわからないもの。

「──本当にそう思ってんのか」

「……」

「現実から目を背けてるだけだ……!」

「…違う」

「じゃあお前は伯爵を信じるのか?あの男の真の狙いを知っていながら、…バカ正直に信じて待つ気かよ!?」

「……」

「──裏切られて、また苦しむのは目に見えているぞ…レベッカ…!」

 アドルフは彼女の肩を持って強く揺すった。

 正気に戻れと、そう必死に言い聞かせているようだった。

 …しかしレベッカは顔を背ける。

 意地をはる子供のように。

「──聞いて、アドルフ」

 レベッカは彼の腕から身体を離し、なだめるように控えめに話しかける。


 そして部屋の入り口の方へ足を進めて、そこにある本棚から書物をひとつ取り出した。

「…これはギリシャ神話の本」

「…ぎ…リシャ…?」

「昔、アドルフにも話したことあったでしょう?…遠い世界の…神様と人間の物語。

 わたしは昨日の夜、この本を読んだわ」

 部屋の灯りはとうに消えている。

 レベッカは本を持ったままベランダに近づき、そこのカーテンを開けると、月の光をたよりにある物語を辿りだす。

「──…」
 
 アドルフは黙って聞くしかなかった。








 ◇◇◇




 ある王国に三人の姫君がいた。


 末の娘、その名をプシュケ…


 彼女の美しさは言葉に尽くしがたく


 美の女神アフロディーテに引けをとらぬほどのものだった。





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