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略奪貴公子
第22章 決意の涙


 美の女神は、人間のプシュケの美しさに嫉妬して…息子のエロスに命じるの。


 恋の矢で彼女を打ち、醜い男と結ばれる運命にしてしまいなさい。


 いたずら好きのエロスはその提案を面白がって、さっそく人間界へと降りていった。


 けれど、眠るプシュケのたぐいまれな美しさに戸惑ったエロスは、あやまって自らの手に恋の矢で傷をつけ、プシュケの虜になってしまった──。


 エロスは彼女を、深い谷間の宮殿へ連れていった。


 そこでエロスは毎夜のように彼女を愛する。


 ……けれど、彼が現れるのは夜だけで、朝の日とともにいなくなってしまう。


『 私の姿を見ようとしてはいけない 』


 愛する夫はそう言うのだ。


 プシュケは幸せの中にいながら、しだいに膨らむ不安に悩まされていた。


 そんなある日、プシュケの二人の姉たちが宮殿に招かれ、彼女の幸せな暮らしに嫉妬してこんなことを忠告した。




 お前の夫は恐ろしい怪物に違いない

 いつかお前を食べてしまう

 そうなる前に夫の正体を明かしなさい

 寝入った彼を灯りで照らし

 その姿を見るのです──




 ──プシュケは姉たちにそそのかされた。


 そして夫との約束を破って、ベッドで眠るその姿を灯りで照らし出した。


 するとそこに眠っていたのは恐ろしい怪物などではなく、美しい神。


 ところがロウの滴りがその肩に落ちたため、エロスは驚いて目を覚ました。


 約束を破った妻を、エロスは怒りではなく哀れみの瞳で見つめる。




 ──愚かなプシュケ

 どうして私を信じなかったのだ




 プシュケは気を失っていた。


 目覚めると、そこには宮殿も、愛する夫の姿もなくなっていた。





 ◇◇◇




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