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略奪貴公子
第22章 決意の涙

 アドルフは咄嗟に、押さえ付けていた手を離して彼女を解放した。

 それはまるで…親に叱られた子供のようだ。

「こんなことまでして、アドルフあなた……!……どうするつもりなの?」

「──ッ…俺は」

「わたしをこの場で奪って…、っ…それから、無理やり連れ去ってくれようとしたの?」

「……!?…連れ去ってほしいのか」

「それは……」

 言葉につまるレベッカは
 今度は自分自身に問いかけていた。

「連れ去ってくれる誰かを…待っているわたしも、嘘じゃない…」

 クロードを信じたい自分

 対して、裏切られるのを恐れる自分

 相反する想いが同居する
 この不安定な心を抱えて…

 誰かがこの状況から、無理やり連れ出してくれたらどんなにラクだろうかと。


「…でもね、あなたにはできないわ」

「──…っ」

「わたしはアドルフを…よく知っています。いくら悪ぶったって、あなたは優しい人だもの」

 嫌がるわたしを無理やりになんて……アドルフにできる筈がない。

 あなたはまっすぐで、義理堅くて、お節介で…

 わたしがこれまで出会った人のなかで、一番、優しい男性よ。

「…クロードとは違うのよ」

 身体を起こし、立ち上がったレベッカは、彼の首に腕を回して抱きつく。

 背が高い彼に合わせるために、一生懸命につま先立ちで背伸びしていた。



 ポタリ、ポタリと……

 彼女の目尻にたまった雫がこぼれ落ち、アドルフの胸を濡らしていった。



「…そんなあなたが…っ…大好きよ…!」



 優しい幼馴染み

 レベッカが貴族である自分の運命に絶望しなかったのは、きっとアドルフがいてくれたから。








 ───





『 ──…ったく、貴族のお嬢さまがこんな煤(スス)だらけなところに来るんじゃねえよ 』


『 まぁ失礼ね、特別扱いなんて必要ないわよ。わたしにもやらせてちょうだい? 』


『 邪魔…って言ってんのがわからないのか?……──っておいおいそこに触るな!!火傷するぞ! 』







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