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略奪貴公子
第23章 硝子の音
その怪盗の手口は実に鮮やかなものだった。
地下牢と前庭をつなぐ秘密の抜け道。
花壇の陰に隠されたカラクリ式の入り口から、彼は誰にも気づかれずに城内に潜り込んだ。
そして怪盗は、城中に飾られた高価な絵画には目もくれず目的のものだけを盗み出した。
見張り塔につづく螺旋階段
その下にある隠し部屋の──
その中には、国宝級の代物が大切に保管されていたのだ。
天才と唱われた亡き画家の名画
伝説とされる生き物の巨大な一角
呪いの箱と畏れられる金のオルゴール
そして……
その輝きと重厚かつ細やかな装飾が人々を虜にする
《 アフロディーテの首飾り 》
怪盗はその首飾り、只ひとつを持ち去った。
そして首飾りを持った怪盗は、そのまま引き返して地下牢からの抜け道を使わなかった。
いったい何を血迷ったか……。最上階の窓を破って逃げたらしい。
清々しいほどの挑戦的な脱出劇。
「──おかしいわよね、どうして最上階なの?」
「ふつう窓から逃げるなら、そんな高いところから逃げないわよねぇ?」
「ふ、つ、う、じゃないところが、噂の怪盗様でしょう♪」
翌朝のメイドの話題はそんなところだ。
「でも盗まれたのが首飾りだけで良かったわね」
「まぁ知らないの!?その首飾りがどれだけ高価なものか!」
「…たしか《アフロディーテの首飾り》よね。どんな首飾りなの?」
「わたしだって…噂でしか知らなかったけれど…」
アフロディーテ
美の女神──