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略奪貴公子
第24章 怪盗の宝

「屋根のない場所で夜をすごすのは久しぶりだ」

「あなた…、昨晩からずっとここに…?」

「──見てのとおり」

「…屋上階段の扉は中から鍵がかかったままでした」

 少し離れた距離で交わした会話──

 この声を聞いたのはいつぶりだろう?

「私はひとつ下の窓を割り、こちらへ跳び移ったのです」

 花壇に座る彼の装束は、伯爵ではなく怪盗だった。

「あなたもそれに気付いたから、こうして来て下さったのではないのですか?」

「わたしはっ…ただ、屋上から " これ " が降ってきたから…!」

 動揺を隠しきれないレベッカが差し出したのは、小さな小さな花びら。

 …それは菫(スミレ)の花。クロードが愛した花のひとつ。

 けれど野草である菫の花は城の庭園に咲いていない。屋上庭園もくまなく探したけれど、どこにも咲いていなかった。つまり……

「……あなたが飛ばしたの?」

「ええ、可憐なあなたへの贈り物です」

 クロードはマスケラを外し、目元を緩めた。

 レベッカはゴクリと…唾を呑む。

 外したマスケラを彼がそっと花壇に置く所作を、真っ白になりそうな頭で見つめていた。


「──…」


「……っ」


 暫く二人は止まったままで

 言葉を発することもなくて──

 近いとはいえないその距離をたもったまま動くことはなかった。

 “ ……クロード ”

 胸の内で何度呼び続けたかわからないこの名前を、彼女は簡単に声に出せなかった。

「黙ったままですか…レベッカ…」

「……ッ‥‥」

「──何故、此処にいるのか」

 何故、私がこうして貴女の前に現れたのか

「……聞かないのですか?」

「……っ」

「そう…、それは残念だ」

 レベッカがピクリとも動かないので、クロードはやれやれと立ち上がった。

 それを見たレベッカは怯えるように身体をこわばらせ…そしてこちらへ歩み寄ってくる彼に、一歩あとずさる。

「ここは花の香りで溢れていますし、灯りもなく薄暗い」

 クロードは歩みより
 レベッカはあとずさる。

「おまけに貴女はその声を聞かせてくれない」

「──…」

「……なら私はどのようにして貴女を感じればよいのか?」

「…っ」

「──触れるしかないのですね」

「…‥ぁ」

 クロードの手がレベッカへと伸ばされた。



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