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略奪貴公子
第25章 Epilogue──1

「──ッてぇ…!たしかお前は…レベッカのとこのメイドだったか…!?」

「ハァッ…ハァッ、はい、そうです。エマと申します」

 人の顔を覚えるのが苦手なアドルフだが、彼女の服装を見てすぐに思い出すことができた。

「何しにお前はっ………また、ここへ来た?」

 彼はいったん作業を中断させ、火傷した手を水桶の冷水に浸した。

 エマがこうして彼を訪ねたのは二度目だ。

 アドルフは口許を覆っていた白い布を外しながら、近づいてくるエマに向きなおる。

「釜戸には近づくな。直接触れなくても熱気だけでお前たちは肌を焼くぞ」

「えっ? …あ、か、かしこまりました」

 走ってきた勢いで疲れはてた彼女を、アドルフは部屋から押し出す。

「…ったく、ここは暑いだろう?さっさと部屋から出ろよ…!」

 火傷した彼は多少のイラつきを見せながらそう言った。

 確かに…釜戸の上には煙突がついているものの、換気しきれない部屋の中は異常な暑さであった。

 軽装のアドルフは身体から男らしい汗を流しながら、首にかけたタオルで額を拭く。


「──で今度は何のようだ。また……
 レベッカ様を拐(サラ)ってほしい、とか言い出すなよ」


「そ!それが…っ、実はレベッカ様が──」


 店前の椅子に座らされた彼女は、レベッカの名に反応して声を張り上げた。


「明朝に…レベッカ様が城から姿を消されました…」

「──…」

「捜索は始まっていますが見つかっていません…!」

「ハッ、上手く逃げたみたいだな……」

 あの夜、レベッカはアドルフに言った。


『 公爵家を裏切るわたしにここへとどまる権利はありません。いつか…この城を出るつもりよ 』


 ──城を出ると。



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