この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
略奪貴公子
第25章 Epilogue──1
「…アドルフ様」
「──…っ」
「レベッカ様は…おひとりで城を出たのではありません…っ」
「あの男…!」
アドルフはもうエマの顔を見る気にもなれず、激しくとり乱した。
彼は店先に置かれた箱の鍵を開け、中から細身の剣を取り、剣帯を腰にさげる。
その剣は、本来は依頼主である伯爵に渡すためのものだった。
そしてアドルフは隣の酒屋に繋がれた馬の手綱をとる。
「おいっ鍛冶屋の兄ちゃん、それはオレんだ!」
「悪い…必ず返す…っ、金も払う!」
馬の持ち主が現れたが彼は迷うことなく馬の背に股がった。
そして馬の腹を強く蹴る──
人混みにかまわず走らせた。
「道をあけろ、馬が通るぞ! 」
「きゃあっ」
買い物に夢中になっていた街人たちは、暴走馬に悲鳴をあげて端に寄る。
店に残されたエマが
遠退く彼の背を、祈るように見つめていた。