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略奪貴公子
第25章 Epilogue──1
凛々しい黒褐色の馬が、その背にアドルフを乗せて街を出る。
全速力でしばらく走ると、道が途切れ、彼の前に小さな村が現れた。
村自体は小さいが広い畑だ。
畑の周りを囲むように植えられていたのはおそらくサンザシで、刺のあるツタを動物避けにしているのだとわかった。
アドルフが村に入ろうとしたとき、昼の仕事を終えて休憩中の村人に出くわす。
「すまない…っ。この辺りにフランスの伯爵の別荘があるだろう?場所を教えてくれ」
「ああクロード様とレオ様のことだね。あの林の向こうさ、相談があるなら行ってみるがいいさ」
「……相談?」
アドルフは村人の言葉どおりの場所へ向かう。
そして少し小高いその場所には、たしかに貴族のものらしい館が建っていた。
彼は早速馬をとめ、入り口の鉄柵を登って越えた。
公爵家のように広い庭があるわけではないので、柵を越えればすぐに館の扉である。
ガチャッ...
「──…」
扉に鍵はかかっていない。ドアノブをおろすと何の抵抗もなく扉が開く。
アドルフは迷うことなく中に入った。
しかし鍵もかかっていない館には、人の気配が何処にも無い。
敷き詰められた絨毯と、入口のホールに面した螺旋階段。
彼は手近の部屋の扉を開ける。
けれど…中はものけの空。
その横も、またその横の部屋を見ても、クロードを見つけることはできない。
彼は館の部屋すべてを確認したが同じだった。
そして、最後に入った寝室らしき部屋の、奥につづくバルコニーを確認したところで、ようやく彼の足は止まった。
「…ハァ…、ハァ…!」
誰もいない…か
アドルフは部屋の壁に背を預けて肩で粗い息をした。